全東信の倒産から学ぶ、持続可能なキャッシュフロー経営

他人事ではない、負債総額1,000億円超の決済代行倒産

2026年7月、飲食店向けクレジットカード決済代行を手がけていた株式会社全東信(大阪市)が、大阪地方裁判所から破産手続き開始の決定を受けました。負債総額は1,000億円を超え、今年最大規模の倒産です。全国20万店を超える加盟店で売上金の入金が止まり、現金やQRコード決済への切り替えを迫られる事態となっています。 

なぜこれほど多くの経営者が巻き込まれたのでしょうか。報道によれば、全東信は「他社では審査に通らない店舗でも契約できる」ことを強みに、多店舗展開を急ぐ経営者や、開業したばかりで実績の少ない経営者から広く支持を集めていました。つまり被害に遭ったのは「ずさんな経営をしていた店」だけではなく、むしろ事業拡大に前向きで、資金効率を重視していた経営者ほど、この仕組みに惹かれやすかったという構造があるのです。成長を目指す経営者にとって、これは決して他人事の話ではありません。 

全東信は1987年に大阪ミナミの飲食店経営者らによる協同組合として設立され、2006年に株式会社化。カード会社からの入金を待たずに加盟店へ立て替える「早期入金サービス」で急成長し、2018年には加盟店数20万店を突破しました。しかしコロナ禍で主要加盟店だった飲食店の取扱高が急減し、資金繰りが悪化。2024年には加盟店契約をめぐる不正で元幹部が逮捕される事件も発生し、信用不安が決定打となって資金調達が困難となりました。破産管財人によれば、未入金の売上金は少なくとも2万件、約53億円にのぼるとされています。 

波紋は飲食店だけにとどまらない 

今回の破産の影響は、加盟店だけでなく金融機関にも及んでいます。東京商工リサーチの調査では、全東信への金融債権者は63の地方銀行・信用金庫・信用組合にのぼり、最大は近畿産業信用組合の219億円。東和銀行(80億円)、三十三銀行(50億円)、大光銀行(15億円)、高知銀行(12億円)、島根銀行(8億円)なども相次いで「債権の取立不能または取立遅延のおそれ」を公表しました。金融庁は地銀・信金への財務影響について実態調査に乗り出しており、一つの決済代行会社の破綻が地域金融にまで波及する事態となっています。 

経済産業省は7月10日、全国378カ所に特別相談窓口を設置し、日本政策金融公庫のセーフティネット貸付の対象拡大を発表しました。あわせて、連鎖倒産防止のための「セーフティネット保証1号」についても、信用保証協会が通常枠とは別枠で融資額の100%を保証する制度の適用に向けた手続きを開始し、官報での告示に向けて準備が進められています。ただし、セーフティネット保証1号などの支援制度は、あくまで金融機関からの「融資」を受けやすくする仕組みであり、全東信への未入金売上そのものが戻ってくるわけではありません。信用保証協会が保証人となることで審査が通りやすくなるだけで、借りたお金は店舗側が利息を付けて返済する義務を負います。一方、全東信に対する未入金分の売上金は「破産債権」として扱われ、実際に回収できるかどうかは今後の配当次第で、全額回収は期待できないのが実情です。また、 支援制度の多くは「対象事由の認定」や「指定」といった行政手続きを経て初めて利用可能になるため、実際に資金が手元に届くまでにはタイムラグが生じる点にも留意が必要です。 

こうした対応の広がりからも、今回の破産が一部の業種・地域にとどまらない、経済インフラ全体に関わる問題であることがうかがえます。 

「うますぎる条件」には必ず裏がある 

全東信の売りは「審査が緩い」「手数料が安い」「入金が週2回など異常に早い」という点でした。しかし、これは非常に危うい組み合わせという見方もできます。 

決済代行会社は、カード会社から実際に入金を受ける前に、加盟店へ立て替え払いをします。入金サイクルを早めるほど、代行会社自身が銀行等からの短期借入に依存し、常に多額の運転資金を回し続けなければなりません。加盟店が増えるほど立替額は膨らみ、資金調達への依存度もさらに高まります。実際、全東信は預金残高の水増しなど粉飾決算の疑いも指摘されており、表面的な成長の裏で財務は限界に近づいていたとみられます。要するに、加盟店にとっての「早さ・安さ」は、代行会社側の自転車操業と表裏一体だったのです。 

目先のコストや利便性だけで取引先を選ぶ姿勢は、実は自社の経営判断にも表れます。安さや早さに飛びつく前に、「なぜこの条件が成立しているのか」を一度立ち止まって考える習慣がない経営者は、いずれ形を変えて同じ罠に落ちる可能性があります。 

実践!会社を守るための「3つの財務防衛策」 

① リスクの分散 

決済代行会社を1社に依存せず、メインとサブの2系統を必ず確保してください。片方が機能停止しても、事業の資金繰りが即座に止まらない体制を作ることが最優先です。 

② 健全なキャッシュバッファ

 早期決済サービスに頼った資金繰りは、いわば「他人の信用」で回している状態です。最低でも固定費の3か月分の現金を自社内に常にプールしておくことで、外部要因に左右されない経営体質を作れます。多店舗展開を進める局面ほど、このバッファの重要性は増します。 

③ 与信管理のアンテナ 

全東信では2024年に元幹部が加盟店契約をめぐる不正で逮捕されるという、明確な危険シグナルがすでに出ていました。取引先に関する不祥事報道や信用不安の情報は、日頃から取引先を定点観測していなければ見逃してしまいます。主要取引先については、決算内容や業界内の評判を定期的にチェックする仕組みを持つことが重要です。  

10年、20年と成長し続ける会社を作るために

事業拡大の局面では、どうしても「いかに早く資金を回すか」「いかにコストを抑えるか」に意識が向きがちです。しかし、全東信の事例が示すのは、目先の利益や効率だけを追った先に、思わぬ形で経営基盤が揺らぐリスクがあるということです。 

長期にわたり事業を成長させたいと考えるなら、成長スピードと同じくらい「財務の安全性」に対する配慮が欠かせません。 

利益が出ていても、資金が途切れれば会社は存続できません。今回の全東信の事例が示したのは、経営努力だけでは防ぎきれない外部リスクが存在する一方で、その影響を最小限に抑える備えは、平時からの経営判断によって大きく変えられるということです。 

中小企業では、日々の業務に追われる中で、売上や利益の管理には目が向いても、「資金が止まったらどうなるか」という視点で経営を見直す機会は決して多くありません。しかし、本当に会社を守る力となるのは、利益計画だけではなく、十分な手元資金の確保、取引先への過度な依存を避ける仕組み、そして将来起こり得るリスクを想定した財務戦略です。 

私たち会計事務所の役割も、決算書や税務申告を作成することだけではありません。経営数字をもとに資金繰りや財務体質を客観的に分析し、将来のリスクを経営者とともに考え、持続的な成長を支えることこそが重要な使命だと考えています。 

決算書は過去を記録するためだけのものではなく、将来の経営リスクを早期に発見するための重要な経営ツールでもあります。数字を『作る』だけではなく、『経営に活かす』ことが、これからの時代の会計の役割です。私たちは、経営者の皆様が安心して挑戦を続けられるよう、財務面から伴走するパートナーでありたいと考えています。